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第13話 聞かれるのを待つな

2021年10月7日

「と、いうことで、真野くんを連れてきました。」

「……」

一瞬しーんと静まり返る。ぱっと見た感じ少しだけ女子が多いが、男子もそれなりにいるようだ。別に敵意のような類のものではない、しかし独特のピリッとした空気が、ここ演劇部の部室に張りつめていた。

「松原くん、ありがとう」

木村部長だ。隣には、今日も木村部長お付きの黒子のように、小さい麻生さんが申し訳なさそうに立っている。

「この度は色々とお騒がせしてしまったみたいで、真野くんにも、部員の皆にも心配と迷惑をかけました。ごめんなさい。」

「大変失礼しました」

麻生さんも続けて謝った。

「今年の新入部員お披露目公演のオーディションをなしにして、そこにいる真野くんを主演にする、という話が出回っていたようです。確かにわたしはあの夜、一部の幹部部員たちにそう発言しました。芝居をやっている皆ならわかってくれると思うけど、この世界って時たまとんでもなく衝撃的な出会いをして、とんでもなく感情が揺さぶられて、極端に言えば暴走してしまったりすることってあると思います。良い芝居を観終わった後、全速力で最寄り駅まで駆け抜けていってしまったり…いえ、こんなただの自己弁明をしたいわけではなくて、そのくらい真野くんの声は魅力的だったということです。オーディションは、やります。これはこの演劇部に代々伝わる伝統行事です。それを1度でも抜かすことは、わたしにはできない。わたしのこの未熟さのせいでたくさんの人を振り回し、傷つけました。本当にごめんなさい。その代わりと言ってはなんだけど、今年のお披露目公演は、この宮野立高校演劇部史上に残る特別なものにしたいと、そういう気概をもってわたしも全力で取り組みます。皆さん、どうぞよろしく。そして、まだ部活体験はあと2日残っています。もう既に正式に入部届を提出してくれた子たちもいるので、希望する役の受付は今日から早速始めようと思います。演目については…」

「木村部長」

「はい、松原くん。」

「僕は、主役を希望します。」

「まだ演目は発表していないけど」

「はい、演目に関わらず、僕は主演を希望します」

「主役が女性かもしれなくても?」

「はい、女性の主役でも、やりたいです」

また、演劇部部室は静まり返った。僕は何で今松原くんにここに連れてこられて、そして何を見せられているのか全くついていけてなかった。

思わずつばを飲み込んだ。隣の松原くんをチラッと見ると、まっすぐ、木村部長を見つめている。だけど、見つめている先は確かに木村部長ただ一人なんだけど、何だかその場にいる全員を見ているかのような目だった。僕も見られている。

「ちょっと待ってください」

少し巻き髪の、おそらく同じ新入生と思われるえんじ色のスリッパをはいた女の子が手を挙げた。その場にいる全員が彼女を確認した後、木村部長が発言を許可した。

「なに、坂巻さん」

「松原、勝手なことやり過ぎだよ。何なの」

「は?」

「木村部長のお話最後まで聞きなよ。大事な話中断させんな」

「はっ何いい子ぶってんだか。そんな行儀よくいい子ちゃんやったところでどんどん自分の居場所なくなるのお前だって十分わかってんだろ」

「はあー。あんたさあ、あたしたち高校生になったんだよ?もうちょっと周り見なよ。恥ずかしい」

「だから何でこうやって皆の前でわざわざつっかかってくるんだよ!お前こそ恥ずかしいよ」

「は?!」

「お前だって、本当は主役やりたいんだろ。やりたいなら言えよ!主役やりたい人―、手挙げてー、って言われる前に、手挙げるくらいの気持ちでやれよ!気持ちがあるなら自分から言え!聞かれるのを待ってないで」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて…」

麻生さんが止めに入る。

「なんであんたにそんなこと言われないといけないわけ?!いいよね、自分に自信のあるやつはさ。でもね、あんたみたいな自信満々野郎には絶対できない表現があるから。あんたみたいなのにはわからない痛みとか苦しみとか妬みとかそういう普通人には見せたくないけど、でも他人のはみたくなるような、そういうの、わたしは表現していくから!あんたにはできない!謙虚さもないお前には!」

「ああ!?」

ガラッ

その時、部室のドアが開いた。入ってきたのは眼鏡をかけた男子生徒。

「「 ああっ!あきちゃん先輩!!!! 」」

その男子生徒が入ってくるとほぼ同時に、松原くんも坂巻さんもほぼ同時に彼に駆け寄っていった。

「あきちゃん先輩聞いて下さいよお!また松原が色々勝手なことした挙句にみんなの前でわたしを貶めようとしてきたんですう」

「違います違います、俺はちょっと変な雰囲気になってる演劇部をなんとかしたくて、でもこいつが邪魔してきたんすよお!」

松原くんと坂巻くんは、瞬時に震えるか弱き小動物のようなオーラを出して必死にその男子生徒に訴え始めた。彼はうっすら微笑みをたたえて黙って聞いている。

「あきら、今日はどうしたの」

木村部長が問いかける。

「ごめんごめん、ちょっとね」

「まあいいです。お披露目公演の話をしていたところ。」

「ああ、『三人姉妹』ね」

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