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第15話 見送る鳥は跡を濁したがる

2021年10月7日

「男性のみバージョンと、女性のみバージョン2種類を作るのはダメなんですか?」

「えっ」

楓くんが小さく反応する。

「演劇とかよくわからないんですけど…素人目で、全員男子キャストバージョンと女子キャストバージョンがありますって言われたらちょっと気になっちゃうかも。そういうやり方にすれば、演じるのをやりたい人が一人でも多く役をやれるし…」

「うーん確かに。めちゃめちゃ大変そうだけど面白いかも。最終的にどっちが面白かったか投票とかにすれば闘争心も燃えるし」

「そこは競いたいんだ」

「いや競いたいっていうわけじゃないけど、なんていうか張り合いがあるとまた違うというか、それでより良いものが作れるんならいいなー」

楓くんがわくわくした感じで楽しそうに話し始めた。僕はその様子を見て少しホッとした。そしてもう一度、視線をあきちゃん先輩に戻す。

「…どうでしょうか」

「………」

じっと見つめ返される。僕は正直この視線から一刻も早く逃れたかったけど、目をそらしちゃいけないと何故か思った。

「いいと思う」

「えっ」

「真野くんは、観に来てくれる?」

「え、」

「お披露目公演、観てくれるの?」

「おう、そうだよ、お前は来いよな!もし実現したら発案者なんだしさ」

楓くんにポンっと肩を叩かれた。

「あ、はい。必ず観に行きます」

「男子バージョンだけじゃなくて女子バージョンも観て、ちゃんと投票までするんだぞ」

「えっうん、」

女子バージョンも観るのか…知らない子の演劇観るのきつそうだな。

「かな子!ごめん、提案があるんだけど」

あきちゃん先輩が声をあげた。

「なに、あきら」

「ここにいる真野くんの提案なんだけど、『三人姉妹』男子キャストバージョンと女子キャストバージョン2パターン作るのはどうかって。そうすれば一人でも多くの人がキャストややったことがないスタッフ部署に挑戦できるんじゃないかと。ひとり一人の負担は大きくなるしどうなるかわからないけど、僕はやってみてもいいんじゃないかと思って。」

「………」

「オーディション立候補時に性別不問にします、だと僕もどういう軸で見ていけばいいかわからないままみんなの芝居を見ることになるし、それなら最初から枠組みを決めておいてからの方が僕も、立候補するみんなもやりやすいし有意義なものになると思う。どうかな。」

                             

                                    

「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は、消灯、戸締りの確認をしてから帰りましょう。」

チャイムがなり、下校のアナウンスが流れている。今日もアナウンスに慣れた感じの、女子生徒の声だ。

「真野くん、この度は本当に迷惑をかけてしまって…そして、とても魅力的な提案をありがとう。何とお礼を言ったらいいか」

「いえ、そんなことないです。公演楽しみにしてます。」

「ありがとう。部員全員でしっかりと検討して、最高の作品を創り上げられるように頑張ります。」

「はい。」

「どこに入るか、決めたの?」

「あ、いえ…。まだなんですけど、もうちょっと悩もうと思います」

「ゆっくり焦らずにね。わたしたちはいつでも大歓迎だから。」

「はい。それでは」

木村部長に挨拶をして、部室を出る。蛍の光が流れている。今日も一日が終わってしまった。

「真野くん」

振り返ると、夕日色に染まった廊下に、あきちゃん先輩が立っていた。

「今日はありがとう。屈託のない意見が聞けておもしろかった。」

「あ、素人が図々しくすみませんでした」

「そんなことないよ。今までにない提案だったし、部員のみんなもやる気に燃えてる感じだったしね」

「それなら良かったです」

「楓とも仲良くしてあげてね」

「あ…あの、あきちゃん先輩は、前から楓くんのお知り合いだったんですか?」

「そうそう、聞いたことがあるかわからないけどJHK扶桑児童劇団っていうところの出身でね、僕も楓も。あと、楓と言い争いをしていた坂巻あんずもね。」

「あ、名前は聞いたことがあります」

「僕はどっちかというと演じる側より、演出の方が楽しいなと思って高校に入る前に辞めちゃったんだけど。楓とあんずは役者志望なんだけど、2人とも僕と同じく高校入る前に辞めて、今こうして同じ演劇部にいるってとこなんだ。」

僕はふとあきちゃん先輩の足元を見た。えんじと緑の左右色が違うスリッパ。僕はなんとなく、あきちゃん先輩がはいているこのえんじ色のスリッパは、楓くんのものなんだろうなと思った。

「聞いてたよ」

「え?」

「真野くんのアナウンス聞いてた」

「えっ…」

「真野くんはさ、どっちなの?」

「………どっちって…」

「やりたい人なの?」

「何をですか」

「人前で何かを、やりたい人?」

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