第20話 いばら姫は眠ったまま
「副部長の、3年吉森かなです」
「3年加藤佐紀です」
「2年の、松本美都子です。みとちゃん先輩って呼んでね~」
「2年の川崎麻衣です」
「よっよろしくお願いします」
「部員はひとまず以上で、今年の新入部員は真野くん、あなた一人、です。」
「さみしいかもしれなけど辞めないでね~! 仲良くやろう~!」
「うん、遠慮なく色々聞いてね」
「あ、やば、めっちゃ嬉しい……愛しい……」
「ね~めちゃかわいい。真野くん兄弟いるの? 絶対弟でしょ。」
「あ、兄がいます」
「ほらーーーーーー!!!!!!」
放課後。正式に、初めて部活に顔を出した。
部活体験の時にも感じたけど、女子の圧力というか、勢いに圧倒されっぱなしだ。
結局今年の新入部員は僕ただ1人みたいだ。不安すぎる。だけど、この雰囲気なら先輩たちの陰に隠れてひっそり裏方を全うできそうである。
ただ一つ、部活体験の時からひっかかっていたことが、入部した今も解決されなかった。
「あの、」
「なに?」
先輩たち、女子4人に囲まれて、みんなニコニコ僕の顔を伺っている。こんな状況も初めてで、一瞬顔が赤くなった気がしたけど瞬時に振り払った。
「あの、部長はいないんですか?」
時が止まる。でもそれもほんの一瞬。
「あ、部長はね、ちょっと今体調を崩してて来れてないの。」
副部長の吉森さんが笑顔で答える。
「そうなんですか」
「そ、私たちが引退までに、真野くんに会わせてあげられたらいいんだけど」
「そんなに重いというか、長引くかんじなんですか?」
「私たちも詳しいことは知らなくてね。でもちゃんと在籍はしてくれてるの。だから3年生3人、2年生2人、そして1年生真野くん1人で、全部で6人だね。」
「そうなんですか」
みんなニコニコ、僕を見つめている。
その後は、放送部について改めて説明を受けた。
放送部は、僕が思っていた以上に幅広い活動をする部活だった。放送部にももちろん大会があって、夏に行われる一番大きい大会、全日本放送コンクールに向けて練習や制作に励むのだそうだ。
僕のイメージではアナウンスを競うものだと思っていたけど、それだけではなかった。アナウンス部門に始まり、朗読部門、創作ラジオドラマ部門、創作テレビドラマ部門、ラジオドキュメント部門、テレビドキュメント部門と6つの部門がある。
朗読はまだなんとなくわかるが、ラジオドラマ、テレビドラマというのを聞いた時に思わず「演劇部……」と言ってしまった。脳裏に彼らが、あの強烈な演劇部メンバーたちが浮かび身構えてしまった。でも先輩たちに言わせると、そこは全然違うものらしい。でもオリジナルの脚本を書いて演じてって……演劇をすることとそんなに違うものなのだろうか。僕にはまださっぱりわからなかった。
「まあ色々部門はあるんだけど、ここの放送部は代々アナウンスに一番力を入れていてね。人数が少ないからっていうのもあるかもしれないんだけど、創作系やドキュメント系はあまり制作経験がなくて、みんなエントリーするとしたらアナウンス部門か朗読部門かってところで。個人プレーだね。さらに言うと朗読部門もあんまりなくて、ほとんどアナウンスかなー」
吉森先輩はチラッと部室にある棚の方を見た。今の今まで気が付かなかったけど、結構な数のトロフィーや盾が保管されているようだ。
僕は棚に近づいて間近でそれらを見てみた。確かに、ほとんどが「アナウンス部門」と書いてある。
「まあ大会はそんな感じで。だから、宮野立高校放送部はアナウンスを売りにしてるってイメージが強くて、結構色んなところに呼ばれて司会やったりアナウンスしたりしてるの。基本的に土日の部活動はなしにしてるんだけど、そういう外部の行事に行ったりで土日活動することもちょいちょいあるかなー」
「し、司会……」
「あ~司会って言ってもあれだよ、何かイベントでお客さん沸かせながらやるみたいなのじゃなくて、進行台本通りに慎ましく、高校生らしくやればいいから。そんなにハードル高くないよ~」
2年の松本……みとちゃん先輩だ。やばい、名前も早く覚えないと。
「みとは得意だよね。このまろ~んとした空気感もあってか、お客さんを惹きつけやすいというか」
3年の……加藤先輩。
「や~さきぽん先輩、褒めても今日はお菓子なんも持ってないですよ~」
さ、さき……! 加藤佐紀先輩だ。だめだ、フルネームで覚えなければ……。
僕がプチパニックを起こしていると、2年の川崎先輩が言った。
「あれだね、真野くんの司会デビューは健脚会のステージ司会だ!あれで全校生徒にお披露目って感じですよね。私たちも去年そうでしたし。」
「うわあ~、1年前なのかあ。早いねえ~」
「そっかそっか忘れてた。男子の声が、ていうか真野くんのその良い声が森の中で響くって想像しただけで感慨深いね」
「え、あの、けんきゃ……え?」
「け、ん、きゃ、く、かい! GW明けすぐにある遠足だよ。その話まだ聞いてない? 学校から10㎞離れた森林公園まで、みんなで歩いていくの。で、公演についたら出し物のステージがあるんだけど、その司会進行を放送部が務めます。それが真野くんの正式な、大々的なデビューだね!」
「10㎞歩く?! あ、いやそこはいいや、あの、僕は裏方でって……」
「「「「「楽しみだね~!!!」」」」」