第27話 バーベキューなんて苦手だけど
「えー、それでは、ゴホン。今年度も無事新入部員が入ってきてくれました! しかも男子部員です!」
「石川先生、結局男子部員は何年ぶりだったんですか?」
「あ、ごめん。ちゃんと調べてこなかった」
「おいー。そういうとこだよなー石川センセって」
「おい川崎! 聞こえてるぞしっかり! ヒソヒソ声のつもりかもしれんが声良く通ってるよ!」
「あの~、結構お肉焼けてきちゃってますけど~」
「ほんとだ! 先生、ちゃっちゃと終わらせて早く食べましょう。ね、真野くん」
「わーすまんすまん。じゃ、本日の主役、真野くんからひとこと!」
うわ、急に僕に全振りされた。思わずこぼしそうになった。手にはオレンジジュースの入った紙コップ。
「あ、えっと、ふつつかものですがどうぞよろしくお願いします。頑張ります」
「ぺこり。はい、いいね。とてもいいです」
「石川先生、いつもキモいけど今日すごいキモいです」
「だから川崎、全部聞こえてるって」
「いや今のは完全に石川先生に直接言ってます。最初に『石川先生、』って呼びかけてるんで」
「ちょ、なんかほんと川崎きつくない!? こんな風だった!?」
「あの、もういいから始めましょうよ。川崎もいい加減にしなさい」
ついに吉森先輩がちょっと怒った。ちなみに、さきぽん先輩は僕の後ろで実は既にお肉をこっそり食べ始めている。
「ごめんなさい。みんな、吉森を怒らせないように! では今度こそ、今度こそ、新生・宮野立高校放送部に乾杯じゃー!」
「「「「おっしゃー!!!!!」」」」
ここは、渡り廊下で繋がれた校舎と校舎の間にある駐輪スペース。放送部は毎年、新入部員歓迎会としてここの駐輪スペースを使ってバーベキューをするのだそうだ。
毎年4月の早めの土曜日にやるらしく、今日ももれなく土曜日。校庭の方からは運動部の掛け声や笛の音が聞こえてくるけど、僕たちがいる校舎側の方は意外と静かだ。それでも、吹奏楽部が楽器ごとに練習している音や合唱部の歌声は時折聞こえてくる。みんな土曜日でも学校に来て頑張っているんだなあ。
「真野くん、早く食べないとなくなるよ、肉」
さきぽん先輩が手に持っている紙皿に肉をいっぱい並べながら忠告してきた。その紙皿の上に乗っている一枚だけでもいいから分けてくれるぐらいして欲しい。さきぽん先輩はボブくらいの長さの髪(正直ボブって具体的にどういうことなのかよく分かっていない)で少しパーマをかけていて、どちらかというとイケメン系の美人だ。声やしゃべりも落ち着いているのでクールなイメージを持っていたけど、めちゃくちゃ食いしん坊であることが今日判明した。ギャップがすごい。
「あ、はい。あれ、みとちゃん先輩のお肉がない」
「ん?」
「みとちゃん先輩が持ってきてくれた骨付きのやつです。えっとスピルリナ、みたいな、なんかそんな名前の」
「あはははは、真野くん~スペアリブだよ。ス・ぺ・ア・リ・ブ。まだあるから安心して~」
みとちゃん先輩が別の網で焼いてくれていたスペアリブを僕の紙皿に乗せてくれた。
「スピルリナってなんだっけ、なんかあったよねそんなの」
吉森先輩もスペアリブを頬張っている。とてもおいしそうだ。
実は僕は、今までバーベキューや焼き肉などに縁がある人生ではなかった。うちの家はあまり外食に出る方ではなかったし、家で焼き肉をやるとしても調理しやすい一般的な平べったい長方形の肉がほとんどだったのだ。だからスペアリブという肉の名前?も今日初めて聞いたし、正直今、ものすごく心躍っている。
「真野、もう箸じゃなくて手でガッといってガッと食べちゃいなさい。先生みたいに」
石川先生は食べ慣れているらしい。ツルンと肉を……ああ、おいしそうだ。
よし。紙皿を脇に置いて、意を決しスペアリブを両手で掴む。熱い。良い匂い。早く食べたい……。
「あー! なんか良い匂いすると思ったら! 何してんだよー!」
突然の、良く通る男子生徒の声。その場にいた放送部全員の動きが止まる。
大きく口を開けて、今まさに待望のスペアリブにかぶりつこうとしていた僕を止めたのは……楓くんだった。