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第29話 グリーン・グリーン

2022年1月25日

「大丈夫か?」

「いや、そんな頻繁に確認してくれなくて大丈夫だよ。前田、良い彼氏になれそうだね」

「俺もそう思う」

僕は少しハアハア息を上げながら、隣を歩く前田の肩を小突いた。

新学期、特に1年生というのは毎日が目まぐるしくてあっという間に時が過ぎていく。

今日は、待ちに待ってもいない健脚会。遠足みたいなものだ。

『け、ん、きゃ、く、かい!GW明けすぐにある遠足だよ。その話まだ聞いてない?学校から10㎞離れた森林公園まで、みんなで歩いていくの。で、公演についたら出し物のステージがあるんだけど、その司会進行を放送部が務めます。それが真野くんの正式な、大々的なデビューだね!』

正式に放送部員になってから初めて行った部活で、2年の川崎先輩に言われたことを思い出した。

今日は、僕の大々的なデビューの日らしい。

もともとスポーツマンじゃないし日頃の運動不足が祟っていることもあるけど、今日のこの鉛のような足の重さの原因はやっぱり精神的なプレッシャーによるものがほとんどだと思う。モヤモヤ……ぐるぐる……が、いやーな感じでずっと付きまとってくるのだ。

「顔色悪いぞ。しろっ」

「もともと僕は色白だよ。小さいころ知らないおっちゃんに、きれいな肌だね~触ってもいい?って絡まれたことあるから」

「何その告白」

うちの学校は一学年9クラスで、僕たちは1年9組。1組から順番に列を作って歩いていくので、1年生の中では僕たちが最後尾だった。(2年生、3年生になるとまた違ったルートで森林公園を目指すらしい。)後ろが誰もいないので、多少チンタラ歩いても誰も困らせないところだけは救いだった。

「真野くん、大丈夫?」

「あ、赤星くん!」

坊主頭の、楓くんと小学校が一緒だった赤星くんが、前の方から小走りで来てくれた。

「なんか真野くんの顔色が悪いって前の方まで伝わってきて」

「うわ、ごめん。全然大丈夫だよ!」

「それなら良かった!辛かったら休みながらで大丈夫だからね」

「うう……ごめん、僕も保健委員なのに情けない。結局救急箱も赤星くんに持たせてるし」

「あはは、いいよそんなの!軽いし」

そう。先日のホームルームで委員会決めがあり、僕はあみだくじで保健委員を、赤星くんとペアでやることになったのだ。早速健脚会ではクラスの健康管理を任されることになり、各クラスに配られたミニ救急箱を持ち運ばなければならなくなった。

「赤星は毎日重そうな野球部バッグ背負ってるしな」

「あれ見た目だけはなんか存在感あるよね。じゃあほんと、無理せずに!」

軽快なランで赤星くんは元に位置に戻っていった。結構前の方だ。

「赤星は優しいな」

「そうだよね、なんか僕の中ですごい癒し系なんだよね」

「あー、確かに。癒し系だけど、芯強い、みたいな感じある」

「……野球部で、鍛え上げられたのかな」

「あー。そうだな」

しばらく僕たちは黙ったまま、前田は僕の歩くスピードに合わせてくれながら、たらたらと森林公園へ歩みを進めた。

    

「真野くーん!おそーい!!!」

「11時15分に特設ステージ集合だよ~」

「いま!何時ですか!」

「……11時37分です、すみません」

もう初夏と言ってもいいくらいの強い日差しの中、運動不足プラス放送部デビューのプレッシャーでヘロヘロになりながらやっとの思いで森林公園に着いた僕に、放送部2年の大先輩2人のお迎えが来てしまった。怒られた。遅刻である。

健脚会の目玉である、森林公園内の特設ステージでのイベント。そこの音響機材やら何やらの準備は、生徒会と放送部が中心になって行うので、事前に集合場所と集合時間が伝えられていたのだった。言い訳をすれば、森林公園の範囲が広すぎて、看板が見えてあ、やっと着いたのか~と思ったら中心地まではまだまだ距離があり、森の中を潜り抜けなければならなかった。そこの時間を計算に入れていなかったのだ。というか、そんなこと考える余裕もなかったというのが正直なところだ。

「あ、前田くんどうも~」

「こんちは。あの、真野ちょっと今日体調悪いみたいで、大目に見てやってくれませんか」

「なーにー!!!真野くん、大丈夫なの?!」

「あ、なんとか……」

「ちょっと日焼けしてる~?」

「え、それでずっと前田くんが付き添って看病してくれてたの!?」

「いやまあ……そうですね」

「えー!良かったね真野くん!!!」

「川崎、落ち着いてお願いだから~」

「川崎先輩、今日いつもの4割増しくらいお元気ですね……」

「川崎はこういうイベントというか本番が好きなタイプなの~うざいかもだけど慣れてね」

「じゃあ俺も、生徒会の集合がかかってるんで……」

「前田、ごめん!ていうか時間大丈夫なの?」

「何時集合だったか忘れた。じゃ」

だからと言って走りもせず、颯爽と前田は去っていく。彼のポーカーフェイスで、僕は我に返った。大丈夫か!?前田!

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