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第33話 離れてみたら喜劇になるか

2022年3月1日

放送室から教室に着くまでは自分でもびっくりするくらい早かった。自分の席にドカッと座る。

「真野?」

前田がくるっと僕の方を向く。長年の付き合いだ。僕の顔を見て、すぐにわかったんだと思う。

「真野」

「これ以上生き恥をさらす必要ない」

「真野」

「迷惑もかけたくない」

「おい、」

「わかってるよ。人間は誰にも迷惑かけずに生きていくことなんてできないんだから、気にするなってやつでしょ」

「違う」

「毎日穏やかに静かに楽しく過ごしたいんだよ僕は。悔しいのとか羨ましいとか嫉妬とかそういうの、嫌なんだよ」

「同じだよ」

「何が?」

「みんな、かっこ悪く毎日生きてるよ」

「やめてよ。かっこよく生きてきた人にはわかんないよ。かっこよく生きてきた人の気持ちもわかんないけどさ」

「真野!」

教室を飛び出す。悲劇のヒロイン、じゃなくて……ヒーローでもないけど、悲劇の主人公ごっこだ。やっぱり前田と僕は違うんだ。

『自分がやるのより、人が頑張ってる姿を見る方が、ずっと楽しいし力もらえるのよ。そういうタイプなの、俺は』

そうだ、石川先生にも挨拶に行かなければ。

先生、先生の気持ちすごくよくわかるけど、でもちょっと違うんです。先生みたいにいられたらどんなに良いか。何度そう思ってそう言い聞かせたか。

僕は、僕だって……。

           

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「ちょっとー!あんたずっとアラーム鳴りっぱなしだよ!前田くんと約束してるんじゃないのー?」

朝。母さんの声、めちゃくちゃよく通る。

ここは、自分の部屋のベッドだ。9時半。寝坊したくなくて30分刻みくらいで設定しまくった、最後のアラームだ。

「……めちゃくちゃ嫌な夢見た」

中2病というやつだろうか。夢で良かった。ひどい。

携帯を見ると、前田から連絡が入っていた。7時半。早起きだなあ。

『遅刻5分ごとにロールケーキ1個追加で』

5分でロールケーキ1個!?た、高い……600円。というより、そんなに一度に食べられるのか?

  

駅前にある、和菓子・幸和堂。どら焼きや塩大福などが売りの、昔から僕たちの町にある老舗の和菓子屋さんだ。確か創業は大正とかその辺りだった気がする。歴史が古い店ではあるが、時代の波に乗るのがうまいのか、店構えは結構おしゃれな感じで、お菓子のラインナップも今風に和菓子と洋菓子をコラボさせたような新しいメニューをバンバン打ち出している。2階建てのお店で、1階入り口の店舗の奥を進むとカフェみたいに飲食ができる。2階もカフェスペースだ。

小さいころから何となく存在は知っていたが、和菓子系があまり得意ではなかったので見向きもしなかった。店に来るようになったのは、前田と仲良くなってからだ。ここは、意外と甘党の前田御用達のお店なのだ。

「決断が早いな、夢の中の真野は」

前田は、期間限定・さくらんぼ寒天ゼリーを頬張りながら言った。

「さすがに自己中心的すぎるよね。僕もびっくりしたし、でも夢で良かった。ひと口ちょうだい」

「そんなにショックだったの、あの録画」

「……なんかショックっていうのもおこがましいんだけど、もっと早く聞いておけば良かったと思った。先輩にも相談してみたことあったんだけど、録音したものと生の声はまた違うから、今はまだそんなに気にしなくていいって言われて」

「そういうもんなんだな」

「はああ、もうしゃべりたくないなああああ」

今までも全然わからなかったけど、あの録音された自分のアナウンスを聞いたら余計に、何故周りの人があんなにも褒めてくれるのかわからなくなった。

……いい感じに褒め続けてやる気を出させないと、こいつすぐ辞めるんじゃないかと思われているからだろうか。いや、でもそうしたら演劇部のあの部長はどうしてだろう。だって僕のアナウンスを聞いて、新入部員お披露目公演の主演に据えようと思ったくらいなんでしょ?

「まあでも真野、青春してるねえ」

前田はそう言って、何の断りもなく僕の抹茶ロールを5分の1強取っていった。

「ちょ、取りすぎだって!なんだよ青春って。あんな自意識丸出しの夢見てこんな底辺でぐるぐるぐるぐる悩むのが青春なの」

「夢の中くらい自意識丸出しでいいだろ、もうちょっと自分に優しくしなよ真野くん」

僕は静かに腹が立ち、前田の残り少ないさくらんぼ寒天ゼリーを器ごと奪って盛大にすすってやった。

「あ、そういえば青春といえば……」

「なに」

「今週末だ、楓くんの、演劇部の本番!」

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