第39話 好きこそ
「はい。これ原稿」
久しぶりの放送室。といっても、先週の木、金曜と2日欠席しただけだけど。
「その原稿は、真野くんに読んでもらわないとね~」
「この土日で集計したのかな? 実際観に行った感じはどうだったの?」
演劇部新入部員お披露目公演が終わって、土日が明けて月曜日。
基本的に1年生は免除されている昼休みの放送部の当番だけど、今日は特別に呼び出されている。今日の当番は3年のさきぽん先輩と、2年のみとちゃん先輩、そこに僕が加わる形だ。
昼の放送では、昼休みの間、音楽とかをかける。音楽とか、と言って、音楽以外何があるんだ?と思ったりしたけど、過去には落語を流したりする先輩もいたらしい。
あとは、校内でのお知らせ、特に部活動の宣伝や大会の結果報告等、リアルタイムに校内放送してしまうのがうちの学校である。部員が生出演(?)して直接マイクに向かってしゃべってもらうこともあるけど、大抵は原稿を渡されて、放送部員が読み上げるようだ。
そして今日は、演劇部の公演のお礼と報告の原稿を読まなければいけない。
「投票結果……報告」
僕もびっくりした。金曜日に投票用紙を回収して、月曜の昼に全校生徒に発表。土日の間にみんなで集計して、打ち上げとか反省会をやったりしたのだろうか。
『……大差で、男祭り組が票を集めました。両日ともに、たくさんのご来場、そしてご声援をいただき……』
「……」
「大差って、具体的にどのくらいなんだろうね」
「真野くんはどっちに入れたの~?やっぱりお友達のいる方?」
「あー、えっと」
坂巻あんずさんは、僕にとってお友達だろうか。
「あ、あの子か。太陽の子・楓くん」
「ふふふ、太陽の子とか言ってるのさきぽん先輩だけですよ~」
「そうかな。みんなそのうちそう呼ぶよ」
前田はどっちに入れたんだろう。帰り道、結局そういう話はせずに前田とは別れた。
「わたしも観に行きたかったな~」
「ていうか石川先生も観に行ってたよね、2日間とも」
「え!? そうなんですか!? うざ~」
「石川先生は投票したのかな? なんか無駄に熱血なところあるから全身全霊で投票してそうだけど」
「うざ~」
「真野くんと石川先生両方の感想聞いてみたいなー。部活公式の文章で『大差』なんて書かれたら、なんか気になっちゃうな」
「……」
『良かった方に〇をつけてください』って、じゃあ〇をつけてもらえなかった方はダメだったってこと? 感想のところに名前を書いてもらえなかった役者は、全然良くなかったってこと? 決してそうではないけど、そんなことはわかっているけど、必然的にそうなってしまわないだろうか。照明の下にいる人たちにとっては、そういう意味をもってのしかかってきてしまうのではないのか。そんな重い審判を、軽い気持ちで僕たちがしてしまっていいのかな。
この原稿、僕が読むのか。
「……僕は、」
どっちにも、入れられなかった。
「どっちにも、入れられませんでした」
「え?」
目の前にいる太陽のようなその子は、きょとんとするとすぐに吹き出して、お腹を抱えて笑い出した。
月曜の授業が全て終わって、楓くんのいる1年8組の教室の前をなんとなく急ぎ足で通り過ぎようとしたら、後ろから声を掛けられたのだ。
「ちょっとお茶しない?」
部活の時間まで。楓くんに声を掛けられたのは僕だけど、きゃ~という黄色い声援がどこからともなく聞こえてきたような気がする。演劇部の公演を終えてから、楓くんのファンはまた一気に増えたみたいだ。まあ、当然の結果だ。
僕たちは、初めて出会ったあの格技場前の自販機で飲み物を買って(楓くんはりんごジュース、僕もつられてりんごジュース、で奢ってもらった)横に2人で腰かけた。
「お前って本当に素直というか、正直者なんだなーおもろ」
「……」
「なんだよ、ていうか今日あんまり元気ない? 昼の放送の時も元気なかったけど」
「え!」
「え?」
「元気なかった?」
「うん。いつもよりなんかこう覇気がないというか、暗かったのかな?」
「ごめんなさい。いやでも元気、元気元気!」
「うそくせー。まあでもあれだ、きっと真野は勘がいいだろうから、わかってるんだろうな」
「?」
「……俺もわかってる。今回はどう考えたって、クオリティ的には女子チームの方が圧倒的に高かった」