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第41話 初めての嫉妬

2022年5月27日

「部長の本内さくらは、休学と共に放送部退部となり、副部長のわたしが部長を引き継ぐことになりました」

「……」

「先週の金曜日急に決まって……グループラインで取り急ぎ連絡しても良かったんだけど、内容が内容だから、ミーティングできちんと話した方が良いと思って……報告が遅くなっちゃってごめんね」

みんな、俯いている。昼休みの当番の時、さきぽん先輩もみとちゃん先輩も普通だったのに。

「ま、そうは言っても今までとほとんど何も変わらないというか、真野くんは会ったこともないもんね」

「会わせたかった」

川崎先輩が泣いている。

「わたしは……会わせたかったです、真野くんに。そしたら、また変わったかもって」

「川崎……」

「わたしは、さくら先輩に……たくさん助けてもらったのに、何にもお返しできなかった」

涙が止まらない。いつも明るくて元気でおしゃべりな川崎先輩のこんな姿を目の当たりにして、僕は言葉を失った。

川崎先輩のこと、先輩たちのことそして放送部のことも、まだ何にも知らないんだな僕は。

ふと、川崎先輩の足元に視線を落とす。

スリッパの色が、青色と緑色だ。青色は2年生で、緑色は3年生の色。

今まで気にも留めなかったけど、僕は直感的に、川崎先輩が履いている緑色のスリッパは本内さくら先輩のものだと思った。

「川崎、ひとまず来年度までの休学だから……もしかしたら来年、川崎たちと同じ学年で一緒に過ごせるかもしれないし」

「それはないと思います、金曜日、今までありがとうねって、元気でねって……まるで会うのが最後みたいに」

「え……金曜日、学校に来てたんですか?」

僕は思わず、口に出してしまった。

「そう。朝一番に、少しだけね」

さきぽん先輩が、僕の方は見ないで答えてくれた。

全く、知らなかった。先週の金曜日なんて、まさに楓くんたちのお芝居を観て、るんるんに過ごしていた時じゃないか。

「全然知らなくて、すみませんでした」

「ううん、真野くんが謝ることは一つもないよ。むしろ申し訳ない」

「……」

いつも割と賑やかな放送室だけど、今日は信じられないくらい静かだ。息も吸いづらい。吉森先輩もさきぽん先輩も、みとちゃん先輩も何を思っているんだろう。誰もしゃべらない。

本内先輩のこと、僕は本当に何も知らない。どんな人だったのか。どんな声でしゃべる人だったのか。

退部……復学したら、また放送部に来てくれるということではないのだろうか。放送部は完全に辞める?

川崎先輩の涙は、まだ止まらない。そうか。この前から、川崎先輩が度々放送で噛んでいたのは、このせいだったのかな。

キーンコーンカーンコーン

永遠に感じるような静寂を打ち消して、チャイムが鳴り始めた。まずい、気づいたらもう18時になっていた。

「やばっ」

「うそ、そんな時間!?」

みんながバタバタと焦りだした。

「僕、やります!」

無意識に身体が動いて、マイク前にスタンバイする。

「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は、消灯、戸締りの確認をしてから帰りましょう」

僕は、みんなのために何ができるんだろう。何だったらできるんだろう。

何がしたいんだろう。

     

     

「なんかさっきのアナウンス、ちょっといつもと違ったな」

「そう?」

「うん。かっこよかった」

「……」

5月も半ば近くになったが、それにしてももう夕方なのに、まだ大分暑い。

「放送部のさ、学校に来てなかった部長、辞めたらしい」

「……そうなんだ」

「……前田、知ってた?」

「うん」

「いつ知ったの?」

「金曜の昼」

「そっか」

「俺から、言うことじゃないと思って」

「うん」

「……真野、」

「あのさ、」

心がザワザワして落ち着かない。それで僕は、よく口を滑らしてしまう。

「前田は、何でサッカー辞めたの?」

「……」

「僕は……何かをちゃんとやったことがないから、それから離れるっていう気持ちがわからなくて」

「……」

「疲れたし、だるいからって、前言ってたのは聞いたけど……」

「そんなに知りたいなら教えるよ」

「いや、ごめん。言いたくないなら本当にいいんだ、ごめん急に」

「疲れたし、だるいから」

「え?」

「疲れたし、だるいから辞めた。本当にそれだけ」

「あ、」

「要するにモチベーションがもう全くないんだよ」

「……」

「今は試合を観るのもしんどいかな」

「……」

「がっかりした?」

「いや、違うよ」

「お前毎回必ず試合観に来てくれてたのに、ごめんな」

「いや……」

「……」

「……ほんとうは、まだサッカーやりたいとか、好きな気持ちはあるの?」

「ない」

「……」

「嫌いだね」

嫌い。そうか。

「そっか。急にこんな話してごめん」

さっきまで夕日で明るかったはずの空が暗い雲で覆われて、急に雨が降ってきた。降り始めたばかりだけど結構強い雨で、しばらく止みそうにない。カバンも制服もビショビショだ。

雨の音がうるさい。

「俺は参考資料なのかよ」

「え……?」

「なんでもない」

 

 

 

「もう、だからってまだ小学生の子たちを脅しちゃダメでしょう!」

「……ゴメンナサイ」

「佳主真も、別にいじめられてる訳じゃないんでしょ?」

「うん、それは全然ない」

「もー。なんて謝りにいけばいいんだか」

「いやかーちゃん、俺なんもしてないからね!ちょっと一言モノ申しただけって!」

「小学5年生の子が、中学3年生のガタイのいいお兄さんにモノ申されたら、そらびっくりするでしょうが!」

「だって、自分の弟がキンギョのフンとか言われてたら黙ってらんないでしょ!」

「こら真人、佳主真の前であんまり言わないの」

「何だっけ、前田くん?そんな名前間違えられるのか?」

「うんまあ、先生とかによく」

「それをマネして、生徒がおちょくったりすんのか」

「別に、僕はいいけど……」

「前田くんの下の名前は?」

「優磨」

「『まの かずま』と『まえだ ゆうま』……まのかずま、まえだゆうま、まのかずま、まえだゆうま……いや、『ま』で始まり『ま』で終わる以外別になんも似てねえ!!!なんでだよ!」

「真人、もううるさい、いい加減にしなさい!」

「それで、その前田くんにはいじめられたりしてないんだよな!?」

「そんな訳ない!前田はそんなやつじゃないよ」

「本当だろうな」

「本当だってば。前田と一緒にいるのがいちばんいい」

「なら、いいけどさ」

「いちばん安心するんだ」

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