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第43話 何味かわかる?

2022年5月27日

「えっと、あとまだ少し先の話になりますが、7月の第一金曜日に球技大会があります。そこでの割り振りを……」

結局、今日は前田とほとんどしゃべらずに、一日が終わってしまった。

前田としゃべらなかったということは、今日誰ともしゃべっていないのとほぼ同義で、表情筋も全然使ってなくてガチガチだ。

その証拠に、帰りのホームルームが終わった後、赤星くんに「保健委員会の教室って2年6組だったよね?」と声をかけられて「え?」と反応した時、眉毛がうまく上がらなかった。使ってなさすぎだろう、表情筋。

「……真野くん、」

「基本的には組ごとでの縦割りになります。班長は3年生の中から……」

しゃべらなかったけど、ちょいちょい目は合った。でも、その度にふい、と逸らされてしまう。

「……嫌いじゃん、それ」

「真野くん、まーのーくん」

「3年生の各クラス2人のうちで、班長を決めて後で報告しに来てください」

前田に、嫌われた。どうしよう。終わりだ。

「ま、の、くん!」

ペチペチ!

手を叩かれて、ハッと我に返る。

「あ……ごめん」

「ううん、大丈夫?」

そうだ……それで、今日は放課後に委員会があって、僕は赤星くんと保健委員の委員会に来ていた。

「ごめん、話なんも聞いてなかった……」

「大丈夫、特に大した話してなかったから」

コソッと小声で赤星くんは言ったが、隣に座っていたおそらく2年生の先輩の視線が、ギロリとこちらに向いた気がして僕はヒヤッとした。

「どうしたの?明らかに元気ないけど」

「うん……ケンカというか……失言というか……」

「え、前田くんと?」

前田。赤星くんの口からその名前を聞いたら、なんだかまた泣きそうになってきた。

「うん、そう。こんなの初めてでどうしたらいいかわかんなくて」

「真野くんの失言が原因なの?」

「うっ……多分、そうです」

「真野くんがどんなこと言ったのか知らないけど、前田くんそんなの気にしなさそうなのにね」

「そう、そうなんだよ、そうだからこそ……」

「……そっか」

キーンコーンカーンコーン

「……それでは、保健委員会を終わります」

3年の保健委員長が委員会の終わりを告げる。ほんとに何も聞いてなかった。ごめん、赤星くん。

「ね、真野くん。部活までちょっと時間ある?」

       

ガゴンッ

「はい!最近のマイブーム」

職員棟と校舎を繋ぐ渡り廊下と並行して建っている、大きな部室棟。その建物の職員棟側はあまり人通りがなく、一日中日陰になっているような場所に自動販売機が置いてあった。

「あ、ありがとう」

赤星くんが飲み物を奢ってくれた。渡されたのは、『お楽しみソーダ』。

「え、何これ……」

「書いてあるとーり!炭酸ジュースだけど、何味かは飲んでみてのお楽しみ」

プシュッと音を立てて、赤星くんは同じ謎の缶ジュースをぐいっとひと口いった。あ、またグレープだ……と少しがっかりしている。

「こんなの、格技場前の自販機とかには置いてないよね?」

「そうそう、ここにしかないんだ!真野くん、何味?」

恐る恐る、ひと口飲んでみる。甘い。甘いけど、何の味かよくわからない。

「え……りんご?」

「え!りんご!?りんごソーダ!?ほんとに?」

キラキラ目を輝かせて、赤星くんが迫ってくる。赤星くんってこんな風にはしゃぐんだなあと思ったら、少しほっこりした。

「……え、これ何味なんだろう」

ひと口飲んで、赤星くんは顔をしかめた。やっぱりよくわからないみたいだ。ただただ甘ったるい炭酸。

ふいに、ガラガラッと引き戸を開ける音が響いたかと思うと、2階の渡り廊下から声が聞こえてきた。

「ちょっと~前田っち、これもコピーお願あい」

「1枚10円です」

「え!なにそれえ~、チロルチョコ払いでいい?」

「現物払いは受け付けてないです」

「え~ケチくない?」

渡り廊下の2階、ちょうど購買部の売店の真上に、生徒会室がある。そこから出てきたのは……

「……前田、」

と、女子生徒。そうか、今日は委員会があったし、前田は生徒会のところに行ってたんだ。

「ありゃ、2年の茉莉さまだな」

「え、誰それ」

誰かと急に話し出した赤星くんの方へ振り向くと、そこには楓くんがいた。

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