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第44話 理由なんて

2022年6月1日

「え、楓くん!」

「よっ」

「で、楓。その茉莉さまって?前田くんに慣れ慣れしくしてた、茉莉さまって?」

「おおおおおおい!何で赤星まで下の名前で呼んでんだよ!許可しとらん!」

「いや真野くんのがうつって、つい。僕がくん付けするのも気持ち悪いしさ、楓!」

「やめろい!もう真野は諦めたけど、赤星はダメ!」

「え~そんなのひいきじゃない?」

「楓くん、茉莉さまって何」

「真野……何か切羽詰まってんな」

「さっきの人誰?」

前田のこと前田っちって……「っち」って何だよ。古くない?

「まああれだよ、テニス部の松野先輩の女子版みたいな。何かと有名な2年の女子。4月から生徒会メンバーみたいだな」

「そういうミーハーなことにやたら詳しいんだねえ、楓は」

「おい、ヤメロ。俺だって聞きたくて聞いてるんじゃねえんだよ。あの人確か最近彼氏できたって聞いたけど……でもあの感じを見ると、前田くんお気に入り認定されてんだな」

「そりゃ前田くんモテる感じだもんね。彼女はいないんだっけ?」

「あはは、四六時中こいつといるんだもん、なあ真野!でも俺が耳にしただけでも、もう3人は振ってるよな」

「えッ!!!!!」

持っていた炭酸ジュースを落としそうになった。前田が3人、振ってる……!?

「何だよ、真野は知ってんのかと思ってたけど」

楓くんが少し申し訳なさそうに、頬を掻いた。

「四六時中一緒にいたつもりだけど、こんなに知らないこといっぱいあるんだな」

前田のこと何にも知らないや。サッカー部の楢崎先生から勧誘を受けていたことも知らなかったし。僕、いつも前田と何をしゃべってたっけ。

「真野くん、そんなに落ち込まないで。楓が余計な爆弾投下したね。ごめんね」

赤星くんが優しく微笑みかけてくれた。

「ごめん、真野。別に前田くんの振り人数知らなかったからって、お前らの友情にヒビが入るわけじゃないと思うし……」

「楓、もう余計なことしゃべるのやめよう!」

「あ、はい……」

赤星くんと楓くんは、そろそろ時間もなくなってきたのでそれぞれの部活に向かった。僕も放送室へ行かなければ。行かなければなんだけど、もしかしたら前田がまたあの2階の生徒会室に戻ってくるかもしれないと思って、しばらくその場を動けなかった。

「……前田っちって、なんなんだよ!」

苛立ちを抑えきれず、僕は控えめに自販機にケリを入れてしまった。でもすぐに罪悪感が押し寄せてきて、自販機をヨシヨシした。

          

川崎先輩は発熱していて、まだ下がっていないらしい。明日もおそらくお休みだろうと、みとちゃん先輩が教えてくれた。

「コンクールの地方予選、エントリーが今週いっぱいまでだから考えといてね」

吉森先輩にそう言われたが……正直それどころじゃない。そもそも放送部に入ってまだ1か月くらいしか経っていないペーペーがコンクールなんて。

それに、片づけの最中に、みとちゃん先輩に小さい声で言われたのだ。

「川崎……もしかしたら今年はエントリーすらしないつもりなのかもしれない」

胸が締め付けられる。本内さくらさんが部長と放送部を辞めたこと、休学したことは川崎先輩にとってかなりショックなできごとであったことは、僕にもわかった。体調不良だって、そのせいもあるだろう。

来週の土日は、フラワーアートフェスティバルもある。野球部の練習試合も……どうするんだろう。

僕がぐるぐる考えたところで何も意味はないことはわかっているけど、頭の中から離れない。

重苦しい足取りで、1人校門へ向かう。

「……え、」

「……」

前田が校門にいる。

「……お疲れ」

「お、お疲れ様」

前田の声を、めちゃくちゃ久しぶりに聞いた気がした。

読んでいた本をしまって、前田が歩き出す。僕のこと、待ってたの?

「……」

「……」

会話はなく、そのまま2人で無言で歩き続ける。僕は前田の少し斜め後ろを歩きながら、時折、前田を斜め後ろから盗み見た。ギリギリ顔は見えない。

怒ってたんじゃないのか?でもいつもみたいに校門で待っていてくれた。だけど、会話はない。

少しだけホッとしてしまいそうになったけど、すぐに考えを改めた。調子に乗っていはいけない。そうやって今まで前田に甘えてきたんだろう、僕は。

「……じゃあ」

「うん、また明日」

いつもの分岐点まで来て、前田と別れる。

しばらく立ち止まって、前田の後ろ姿を見送った。今前田は何を考えているんだろう。

どうして校門で待っていてくれたの?

僕から、前田に言わなきゃダメだ。前田からのアクションを待っていてはいけない。それははっきりとわかっている。

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