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第45話 ビッグなメジャーリーガー

2022年6月14日

「あれ……そういや真野くんの下の名前、メジャー行った橋口と漢字もまったく一緒だね」

「あっほんとじゃん!カズマって名前でこの漢字使ってるって、橋口からとった感じ?」

「……え?」

何故か僕は今、クラス中の視線を集めている。

「だから、野球選手の橋口佳主真からとった名前なの?真野くんて」

クラス委員長の森崎くんと球技大会委員の金杉さんに、壇上から問い詰められている。

      

金曜日、最後の6時間目はLH、ロングホームルームだ。高校に入学して初めて時間割を見た時、LHがなんのことだが全然わからなくてクラスのみんながちょっとざわついたのを覚えている。この時間でクラスの決め事、委員会を決めたり、ついこの前は健脚会についての事前確認等が行われた。

一週間の最後、もうこの時間は既にみんな今週の学校は終わったも同然のテンションになっていて、ちょっと騒がしい。

ザワザワと好き勝手しゃべるみんなの声を遠く聞きながら、僕は目の前の前田の背中をただボーっと眺めていた。

前田としゃべらなくなって3日経った。

挨拶だけはしてくれるけど、それ以外は一切会話はない。あと、帰りは校門で待っててくれる。そこだけは変わらなかった。

僕はというと、何とか自分からこの状況を打開せねばと、授業が終わってから部活までの間の時間、少し前田を尾行した。

先日健脚会が終わったばかりなのにますます忙しくなっているのか、前田は囲碁将棋部に行く前に必ず生徒会室に立ち寄っていた。そして何やら書類を持ち出してコピー室に向かい、大量の書類を持って戻ってくる。あれ、楽しいのかな?そういう雑用的な類を前田は淡々とこなすイメージだったけど、自分から好き好んでまでやるようなタイプだったのか……としみじみしてしまった。

「前田っちー!これは両面ね~!」

そしてちょいちょい、先日目撃してしまった噂の茉莉さまが絡んでくる。

彼女の存在が何故だかあまりにも気に障るので、部活の時間にさりげなくみとちゃん先輩に聞いてみた。

「え、茉莉~?めっちゃいい子だよ~?」

「あ、そうなんですか」

「うん、確かに顔めっちゃ可愛いから目立つし、なんか色々噂みたいなの立ちやすいのかなあ?でも性格いいから、女子にも人気だし」

「へ、へえ~……」

「あれ、真野くん気になっちゃってるの~?」

「違います!僕じゃないです友だちが」

「ふ~ん。でも残念、健脚会の時くらいから、サッカー部の子と付き合い始めたんだよねえ」

「え、サッカー」

「うん。中学の時はサッカー部のマネージャーやってたんだって。ぴったりだよね~」

……余計に心配になっただけだった。

テニス部の松野先輩みたいに内面に難ありなら(結局よく知らないけど)、そのくらい前田だって見抜いて深く関わろうとしないだろうけど……。そしてサッカー。なんだかひたすらに気分が落ち込んだ。

      

「え~あと一人、誰かいないですかあ?」   

今日のLHは、7月初めにある球技大会のメンバー決めだった。種目は男女分かれて、ソフトボール、ドッチボール、サッカーの3つだ。

いちばん人気は、ドッチボール。何故なら適当にやり過ごせるから。ソフトボールとかサッカーは、責任が重い。みんな考えることは一緒だった。

学校全体の共通認識として代々そんな感じだったみたいなので、僕たちのクラスはぶっちぎり不人気の、ソフトボールから決めることになった。そして何と言ったって、うちのクラスは野球部員、赤星くんひとりだけなのだ。

赤星くんだって、球技大会くらい野球(正確には違うけど)以外のことがやりたいって思うだろうなあ。

そんなことを呑気に考える。僕は申し訳ないけどドッチボール一択。ソフトボールに手を挙げる気はさらさらない……無理だ。

「あっほんとじゃん!カズマって名前でこの漢字使ってるって、橋口からとった感じ?」

「……え?」

気づいたら、クラス中の視線を集めていた。

「だから、野球選手の橋口佳主真からとった名前なの?真野くんて」

「え、いや」

まあ、そんなような話はうっすら親から聞いたことがないこともない。けど……あんまり下の名前で呼ばないで欲しい。だから嫌いなんだ。

「えーいいじゃんいいじゃん、真野くん、ソフトボールあと1人なの!お願い」

球技大会委員の金杉さんに合掌される。

「いや、あの僕ソフトボール下手くそだしそもそも運動神経が」

言いながら、目を逸らしてしまった。

「全然大丈夫!そんな優勝目指そうとか言うわけじゃないしさ!」

「メンバー表に佳主真って書いてみたいよねー!」

んな訳あるか。クラス委員長の森崎くんは結構悪ノリしてくるタイプだ。

「え、それに真野くんて赤星くんと仲良いよね?キャプテン的にはどうですか、真野くんは!」

「うん!僕も真野くんと一緒にやりたい」

赤星くんがくるっと僕の方に振り向く。ああ、赤星くんの眩しい笑顔が辛い。優しさが嬉しいけど辛い。そして赤星くん、キャプテンにされたのか。なんて優しい子なんだろう。わからない、本当に野球が好きで好きで好きでたまらなくて、部活以外の時間でもソフトボールでも何でも野球がやりたいって思ってるのかもしれない。それは幸せなことだ。自分の好きなものがわかってて、やりたいことがわかってて、やれることもわかってるって、才能だし何より幸せなことなんじゃないか。

でもごめん無理。野球なんて。

「ほらほらあ~、佳主真―!お願い、ラスト1名!」

「真野くん~!!!」

できないよ。できないんだよ僕は……

「俺、やります」