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第5話 ラブレターの中身

2021年10月7日

「あの、前田くんにこれ渡してもらえませんか」

「え…はあ」

2時間目の後の休み時間中、トイレから戻り教室に入る瞬間を取り押さえられた。女子が2人くらいで来て、片方が少し後ろで見守る中、もう片方が手紙を男子に渡す。これは、どこかで見たことがあるやつだ。あるあるのシチュエーションじゃないか。高校生にもなると、こんな漫画みたいな展開が現実に起こるのか…僕は少し感慨深い気持ちになりながら、渡された封筒の感触を確かめる。

しかし残念ながら、僕はお使いだ。前田くんにこの明らかにラブレターっぽいものを確実に渡さねばならない。

彼女たちは目的を果たすと、きゃあきゃあ言いながら廊下を小走りでかけていった。これが青春ってやつか。ははあ。

前田は、女子に人気がある。サッカー部ということもあったのだろう、いや、確かに前田はかっこいいいやつだ。普段は何事にも興味がなさそうな顔をしておきながら、何かここぞという時に、相手の懐にすっと入ってくるのだ。クラスの中心にいるタイプではないけど(ほとんど僕と一緒にいるし)、気がついたらみんなの信頼を集めているような男なのだ。何それ、かっこいいよなあ。

彼女たちを何となく見送り、教室に戻ろうとした瞬間、また女子の声で呼び止められる。何だ、また前田くんへのラブレターか?そもそもまだ入学してから数日しか経ってないというのに、年頃の女子たちはチェックが早すぎないか?僕は少々呆れながら振り返った。

「あっ…」

「真野くん、昨日は体験に来てくれてありがとう!名前とクラスをうっかり聞きそびれちゃって。探したんだよ~。」

「あ、昨日は、その節は…」

「どう?前向きに考えてくれてるのかな?」

放送部の、昨日のお三方のうちの一人だ。その顔を見た瞬間、僕は何故か固まってしまった。言葉もうまく出てこない。どうしよう。

「まだ体験期間は始まったばかりだから、他の部活も見に行くと思うんだけど…、本当に、良かったら前向きに検討して欲しいです。」

「えっと、、僕、」

「イヤかな?昨日の様子を見てたらわかると思うんだけど、うちは今全部で5人しかいなくて、そのうち3人が三年生なの。あと顧問の河合先生も言ってたけど、13年?くらい、ずっと男子の入部がなくて、女子だけでやってきたのね?だから真野くんみたいに、男の子が入ってくれるとめちゃくちゃ助かるというか」

「あ、こんちは」

「あー!前田くん!昨日はありがとうね」

救世主、前田、現る。ほら、こういう奴なんだよ。

「ま、前田…」

「まだしばらく色々見て回ろうと思ってるので、もうちょっと待ってもらってもいいですか」

「もちろん!前田くんも前向きに検討してくれると嬉しいです!」

「ありがとうございます。すみません、お名前きちんと聞くの忘れてました」

「あーこちらこそごめんね!わたしは副部長の、3年6組の吉森かなです。」

「吉森さん、ありがとうございます。それでは」

「いきなり押しかけてごめんね!ではではよろしくねー!」

僕はしばらく放心状態だったが、はたと我に返り、遠ざかる副部長・吉森さんの背中にペコリと一礼した。

「前田…ありがとう。めちゃくちゃ助かった。」

「いや、トイレ行こうとしたらなんかつかまってたから」

「うん、ありがとう」

手に握りしめていたラブレターのことを思い出した。僕の手汗で湿っている…。非常に申し訳ない。

「あとこれ、前田くんへ」

「何それ」

「どう見たってラブレターだろ」

「そうか?不幸の手紙かもしれないからお前開けて読んで」

「は!?やだよ。書いた子に申し訳ない」

「なんだよ、俺が呪いとかお化けとかダメなの知ってるだろ」

「だからこの苺がちりばめられたピンクい封筒のどこをどう見たら不幸の手紙になるんだよ!…不幸の手紙って結構古くない?」

「助けてやったのになあ」

じとーと僕を見つめる前田。こんなお茶目さも兼ね備えている。腹立つ。

もういいや、さっさと終わらせよう。僕は封筒のふたを閉じているこれまた苺のシールを丁寧にはがした。トイレ行かなくていいの?前田。

「えーと、1年9組前田くんへ。今日のお昼休み、屋上で待っています。ゴトウより。…だって。」

僕と前田は静かに見つめあった。

キーンコーンカーンコーン

授業開始のチャイムが鳴った。

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