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第6話 開演前

2021年10月7日

マンガみたいだ。今まで過ごしてきた人生のように、もっと地味な高校生活を送ると思ってた。色々スタートダッシュし過ぎじゃないか?

まあ実際には僕じゃなくて前田なんだけど、でも昨日の部活動体験とかも含めると、何かとバタバタしている気がする。僕自身が。

僕は、こういうことには慣れていない。だって日陰者だから。日陰者には日陰者なりの幸福な日々の過ごし方があるのであって、そこらへんは日向者の皆さんには目の前の人物かどちらに属する人間なのかきちんと判断いただきたいところだ。そちらの温度感に巻き込まないでほしい。「良かれと思って」というのも大嫌いな言葉のひとつだ。…こういうことばかり言っていると僕が性格がねじ曲がった非常に嫌な奴に見えるかもしれないが、そこは誤解しないでほしい。僕は至って、穏やかで慎ましい少年だと自分で思っている。その穏やかさとか慎ましさを脅かされるような事態になると、イライラしたり、怒ったりするということです。

前田は?前田は日陰者か日向者か。これは実は、僕の中で今非常にホットで繊細な問題だったりする。僕は日向者の人間とつるんだりしないのだが、でも、前田はどっちかといったら日向属性なんだと思う。前田自身はボーっとしていて何を考えているのかたまによくわからない、つかみどころのない奴だけど、ちょっと離れて見てみるとものすごくキラキラしている人間だと思う。人に、好かれると思う。だから僕はそのキラキラに気づかないように、ずっと、彼のものすごく近くにいるのかもしれない。

お昼休み。初めて屋上に続く階段を昇る。僕より先に進む前田は、今どんなことを考えているのだろう。僕は、ドキドキしている。きっと前田より。今から何が起こるのか、少年漫画(少女漫画か?)のような展開が待ち受けているのだろうか。前田に、彼女ができてしまったりするのだろうか。そしたら僕って本当にただの邪魔者だよなあ。でも僕から付き添いを願い出たわけじゃない。昔から、前田からの頼み事は断れない。どうしてかはわからないし釈然としないけど、一つ言えるのは、その頼み事に乗って悪い展開に転んでいったことが、ほとんどないと思う。いつも何かしらおもしろい方向に進んでいって、前田は僕を楽しいことに巻き込んでくれるのだった。だから僕は気が乗らないお願いだったとしても結局いいよ、と言ってしまうのだ。心のどこかでわくわくしながら。

それにしても、手紙の送り主はどんな子なんだろうか。僕に手紙を渡してきたあの子…いや、絶対そうだとは言い切れない。あの2人は両方ともお使い係で、本当の送り主はまだ姿を現していないかもしれないし…待てよ、そもそも女の子じゃないかもしれない。本当はイカツイ上級生の男子で、何かしらで前田に目をつけて…今から僕たちはシメ上げられるのかも。

前田はずっと黙ったままだ。

「ねえ、前田」

「…こわい」

「…俺も」

もしかしたら、前田も同じようなことを想像していたのかもしれない。僕たちは少し顔を強張らせながら、階段を昇った先、大きくて重たいドアを押し開けた。

目の前が光でいっぱいになる。誰が、何が待ち受けているんだろう。こわいけど、少し楽しんでいるのも事実だ。………いや、今のは訂正。不安が押し寄せてきた。何故なら、慣れてくるはずの目が、まだ眩しくて開けられない。あれ、なんでだろう?今日はこんなに眩しかったっけ。

ようやく目が慣れてきて、少しずつ屋上の様子を確かめる。真っ赤な一筋の道ができている。僕たちの足元から続いているようだ。ん?赤いカーペット…なんでこんなものが屋上にあるのだろう。

「おい、なんかでかいソファがあるぞ」

前田が指さす方向を見ると、僕たちの足元から伸びている赤いカーペット、あれだ、レッドカーペットの先に、ゆったり二人掛けくらいの大きいソファが置いてある。

「え…高校の屋上ってこんな感じなの?」

「しらん…聞いたことないけど」

ソファの両脇には、スタンド式の照明が置いてあった。僕たちの方を無駄に照らしている。さっきの異様な眩しさはこいつのせいだったのか。

それにしても、異様だ。少なくとも、今からドキドキの恋の告白タイムが始まることはなさそうだ。多分。

「まあちょっとよくわからんし、とりあえずあのソファで待ってようぜ」

「え、座るのあれに?!」

前田はツカツカとレッドカーペットを進んでいく。ちょっとかっこいいじゃんとか思ってしまった。

「え、大丈夫かなあ。僕たちと全然関係、ないやつでしょ、これ。わかんないけど。」

「わかんないから、いいだろ。」

そのまま、前田とソファに座って15分くらい経った。ふかふかでなかなか良いソファということはわかるんだけど、今から何が起こるのか、僕たちはどうなるのか全く見当もつかず、ただただ前田と無言で手紙の主を待ったのだった。昼休みはあと15分だ。こんなことなら急いでぶどうパンなんて詰め込まずに、ここに持ってきてゆっくり食べれば良かった。そんな呑気なことを考え始めた矢先…

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