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第7話 ゴドーを待っていた

2021年9月11日

「うわあっ」

屋上の扉を開けた時に感じたような強烈な光に、再び視界を奪われてしまった。ひとまず両腕で顔を覆い、目が慣れてくるのを待とうとした時、ファンファーレが鳴り響く。

ファッファファファーファッファッファッファッファファファー

「…え?!」

僕たちはとっさに両腕を下した。眩しさにも大分慣れてきて目を凝らすと、ファンファーレに続く陽気な音楽に乗せて、ラインダンスのようなものを踊る集団が見えてきた。みんなすごい笑顔だ。怖い。人の表情の中で、笑顔、笑った顔が一番恐ろしい表情なんじゃないかと思えたくらいだ。人数は10人だろうか。ちらほら男子生徒が見えるが、ほとんどが女子のようだ。みんなで手を組み足を上げ…すごいな、足の高さがばっちり揃っている。みんなうちの制服を来ていて、そんなところに目が行って申し訳ないが、女子たちはスカートの下にフワフワしたペチコートのようなものを履いている。男子たちは制服ズボンをはいてよくあそこまで足が上がるものだと感心してしまう。ズボン裂けたりしないのかなとちょっぴり心配しながら。

それにしても、いまいち状況がつかめない。今僕たちは何を見せらせているのか、そもそも僕たちは、何故今ここにいるんだっけ…

「1年9組!」

「「1年9組!!」」

「前田くん!!」

「「前田くん!!!」」

どこからともなく、マイクで高らかに声をあげる女子生徒の声が聞こえてきた。その声に合わせて、目の前のラインダンス部隊が元気よく復唱する。えっもしかしてこんな感じで今から告白タイムに突入する感じなのか?

「…はい」

隣の前田が行儀よく返事をした。さすがの前田でも、困惑を隠せないようだ。

「待てども待てども彼女は、いや彼か?彼は来ない!さながらウラディミールとエストラゴンのようだ!」

「「ゴトーを!!!!!待ちながらあああ!!!!!」」

呆然とするしかない僕と前田。な、なんだって?何を言ってるのかさっぱりわからない…。あと今、何時だろう。

「ゴトウからの手紙、受け取ってくれて、読んでくれて、そしてここへ来てくれてありがとう!私たちはあなたがたを心から歓迎している!」

「「ようこそ!!!!!」」

「あなたの昨日の下校アナウンスを聞きました。県立宮野立高校演劇部、部長の木村かな子です。」

そのマイクの声の主は、僕たちの背後からコツ、コツ、と美しい音を立てながら、使っていたマイクを途中で下ろしながら、僕たちの前に現れた。

長い黒髪。しかし女女しいわけではない。どこか中性的な魅力を醸しながら…それはもしかしたら凛々しい顔つきと、女性にしては中低音な、芯のある声のせいかもしれない。まさに演劇とか、そういうスポットライトを浴びるような人種の人だ、と一目で感じた。オーラがある、ということなのだろうか。

「初めまして。単刀直入にいいます。演劇部に入ってもらえないでしょうか?」

「えっ…」

「アナウンスの声、いや、あなたの声、素晴らしかった。一声聞いて、ハッとさせられた。きっと持って生まれた天賦のものなんでしょうね。うらやましいし、正直嫉妬で気がおかしくなりそう。」

「は、はあ」

「うちの演劇部はなかなかに歴史と実績がある宮野立高校部活動のメインストリームであるという自負はあるのだけれど、あなたもご存じの通り、全員が部活動に入らないといけないので毎年新入部員確保戦争が激しいのです。なので在校生たちはこの四月、新入生を心待ちにしながら、各々の持つネットワークを駆使して新入生の情報を集め、できるだけ青田買いというか、優秀な、有望な生徒を確保する努力が必要になります。特に演劇部というのは敬遠されがちな部活の一つです。熱心な、やる気と希望に満ち溢れた演劇少年少女たちは確実に存在はするものの、その数は…。あなたは中学までサッカー部だったと聞きます。スポーツをやっていた方はそもそも身体に対する意識が強いので、演劇経験者を抑えてメキメキ演技の才能を開花させていくことは決して少なくないです。その声と、身体性があれば必ずやスターになれます。いや、スターなんて言い方はあなたは好きではないでしょう。何だったらしっくりくるだろう…」

「あの」

「なあに?」

「前田は俺ですけど、昨日の下校アナウンスは俺じゃなくて隣のこいつです」

「え?」

「俺じゃなくて、この、真野っていいます、こいつです。」

気づいたら前田によって、僕は演劇部部長に差し出されていた。

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