第8話 スポットライトの内と外
気づいたら前田によって、僕は演劇部部長に差し出されていた。その木村部長と、顔がぐっと近づく。
「え、おい、ちょっと前田…」
「………麻生!!!」
演劇部部長が叫ぶと、何だか黒子みたいな小さい女子がサササッと駆けてきて、二人で何やらコソコソ話し出してしまった。
僕はなるべく小さい声で、隣の前田に文句を言った。
「おい、前田!」
「いやだって事実だし」
「わざわざ言わなくていいよ、何なんだよもう」
「それよか、すごいな。大好評じゃん、昨日のやつ」
「うるさい!もうよくわかんない、とりあえず甘酸っぱいトキメキメモリアル的なことではなかったみたいだし、今のうちに教室戻ろう」
「…確かに」
ラインダンス部隊も困惑しているようで部長たちを心配そうに囲んでおり、僕たちはその固まりを横目にそそくさと屋上を後にした。
「この高校って、なんか押しが強い人多くない?」
「今日だけで、2回目だな」
「え?」
「放送部と演劇部」
あ、そうだった…放送部のことをすっかり忘れたていた。
「あんなちょっと校内放送したくらいでこんなにまとわりつかれちゃうなら、あんまり気軽に部活動体験できないなー」
部活動初心者の僕としてはのんびり色んな部活を見学してみたかったけど、先輩たちの強めな圧に2日目にしてもうおなか一杯の気分だ。
「………」
前田からは、特に返事はない。
「えっ今日どうする?今日も回る?」
「俺は回るつもりだけど、真野くんがまた頭角を現してこれ以上人気者になっても困るだろうから、真野くんの好きなようにしてください」
「なっなんだよそれー」
キーンコーンカーンコーン
昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。僕たちはバタバタと階段を駆け下り、教室へ急いだ。
その日の授業が全て終わり、掃除もきっちり済ませた放課後。
結局僕は、家に帰っても母さんからの「今日はどうだったの?部活は決めたの?」等の質問攻めを受けて今日の報告会をしなければならないと思うとすぐに帰宅する気になれず(遅く帰ったとしても結局ご飯の時間にしゃべらされるんだけど)、前田について部活動見学を回ることにした。
目立つような体験がなさそうなところを厳選し、囲碁将棋部、マンガ研究部、華道部、オカルト研究部を回った。
この4つは部員の人たちもいい感じに力が抜けていて、話を聞いていて疲れなかった。というのも、部員数が以外にも多いから、必死に部員争奪戦に参加しなくても毎年一定数新入生が入ってくる、人気の文化部のようだ。うちの高校が全員部活動加入必須、ということを入学してから知る人も少なくない。そういう人たちも含め、ゆるっと自分のペースで部活を楽しみたい人たちにとっても打ってつけの部活なのだろう。地味なようでいて大所帯だから部室も広めだし、宮野立高校部活動の中でも力があるというか、発言力もあり、「文化部四天王」と呼ばれているらしい。
確かに、今日の4つはなかなか良かった気がする。週1~2回の全体の活動日があり、その他は基本的に自由。土日も来たい人は顧問や部長らと相談した上で活動可。基本個人プレーベースなので、集団行動が苦手な人でも過ごしやすい。そして何より、部員の人たちの雰囲気が良かった。ガツガツしていなくて、人の話をあまり聞かず強引に物事を進めていったりしない感じ。いや、放送部や演劇部の人たちを否定しているわけではない。ただ僕には合わないと思っただけだ。そういう空気を今まで避けながら生きてきたのだから。
「俺、囲碁将棋部にしようかな。」
「あ、そこなんだ。確かに良かったね」
「うん、囲碁とか将棋もちゃんとやったらおもしろそうだなと思った」
へー、今までサッカー部でゴリゴリの運動部でやってきた人間が、囲碁将棋に興味がわくこともあるんだ。前田と囲碁将棋。想像しただけでちょっと笑えるんだけど、でもおもしろそう。
「おまえは?」
「え?」
「今日の4つの中から決めるの?」
「うん、そうなると思うけど、どうしようかなあ」
正直言うと、どこでも良かった。今日の見学を通して、前田みたいに何か少しでも興味がわけばそれが一番いいのだろうけど、それはなかった。
とりあえず、前田と一緒の部活にしてみるか…
そう思った瞬間、チャイムが鳴り響く。そうか、もう下校の時間だ。
「下校の時間になりました。まだ校内に残っている生徒は、消灯、戸締りの確認をしてから帰りましょう。」